名曲中の名曲、"Dans mon ile"はボサ・ノーヴァ誕生期のアントニオ・カルロス・ジョビンに影響を与えたというのはあまり知られていない話。58年というと、ホベルト・メネスカールやカルロス・リラなどが「ギター・アカデミー」として小さな音量でのサンバを探究し始めた頃だから、やがて、ナラ・レオーンのアパートでのセッションに、トン・ジョビンがこの曲からインスパイアされた何かを持ち込んだというのは符合する。それほどまでに、この「ぼくの島で」という曲はボサ・ノーヴァのテイストに満ち溢れている。それというのもやはりアンリの中に流れるクレオールとしての「血」と、レイ・ヴァンチュラ楽団時代、抑留同然に留まっていたブラジルで身につけた音楽センスがあったからだろう。ボサ・ノーヴァが本国ブラジルでは「古い」音楽として下火になっていた90年代中頃にボサ・ノーヴァをより自由に、さらに強力に推し進めようとする「トロピカリズモ運動」の先鋒であったバイーアのカエターノ・ヴェローゾが"Outras Palavras "でカバーをしたが、それは、とりもなおさず、この曲にボサ・ノーヴァを超える自由さ(「ソン・リブレ、ソン・ウニヴェルサール」)を見い出しての事だろう。それもまた名曲の誉れ高い逸品であり、つくづくこの曲のもつ「魔力」を感じずにはいられない。 |